「盃を交わす」の意味
「盃(さかずき)を交(か)わす」とは、相手との親交・信頼を深めるために酒を飲み交わすことや、その儀礼的行為を意味する慣用表現です。
「盃」とは酒を飲むための器のことで、さまざまな大きさ・形がありますが、中心がくぼんだ円形・皿状のものが一般的です。それを「交わす」ということは、お互いに盃を使ってお酒を飲み合う、という情景をイメージすればよいでしょう。
なお、「盃」は「はい」とも読みますが、「盃を交わす」という慣用句の場合は「さかずきをかわす」と読むのが一般的です。
なぜ「親交・信頼を深める」意味?
なぜ、一緒にお酒を飲むだけで「親交・信頼を深める」意味となるのでしょうか?お酒を飲むと、アルコールが脳に回って人はいわゆる「酔う」状態となり、精神的な抑制が弱くなり、普段とは異なる特殊な心理状態になることがあります。
このような性質から、酒は古くから呪術的儀式や祝祭、コミュニケーションの円滑化などに用いられてきました。現代でも、「飲み会」の文化は規模を問わず広く見ることができますね。
お酒を飲むとその人の本性が出る、という言葉もあるように、互いに「建前」を取り払って何かを約束したり、誠の心を確認したりする試みが、「盃を交わす」というひとつの「形式」を生み、慣用句になったのではないかと考えられます。
「盃を交わす」の使い方
「盃を交わす」という言葉は、その言葉自体に「強い信頼関係の構築」や、「信頼関係の上に築かれた重要な約束事」といった含意を持っています。とはいえ、通常はその前提として実際の「盃を交わす」行為が伴うとイメージされるでしょう。
しかし、今日では本格的な儀礼としての「盃を交わす」を見る機会はあまり多くなく、あくまでも形式的に行われることが大半といえます。
極端な例では、会社帰りのサラリーマン二人がふらりと寄った居酒屋で、酔った勢いで「何かあったら助け合おう」とビールの入ったコップを飲み交わすことも、(お互いが本当にその気なのであれば)「盃を交わす」と言ってよいでしょう。
具体的な「盃を交わす」シーン
例えば、ヤクザの人間が義兄弟となる時、「盃を交わす」ことがあります。血縁でない二者が「兄弟のように」固く結ばれる証として行われ、ヤクザ映画などでたびたび見られるため、「盃を交わす」といえばこのイメージという方も多いかもしれません。
他に、結婚式で、新郎新婦が「盃を交わす」ことで、二人が末永く結ばれ合うことを誓うこともあります。結婚も、血縁でない「他人」と交わす約束事ですから、こうした形ある儀礼が求められると考えられます。
同様に、何らかの目的の元に集った二者あるいは集団において、強い結束や目的成就を願って「盃を交わす」ことがあります。やや大仰かもしれませんが、会社の懇親会や慰労会、接待などでやっていることも、「盃を交わす」と似たようなことかもしれません。
例文
- あの暴力団組織では、会長の立ち合いのもとで盃を交わす儀式を行わない限り、組織の正式な構成員とは認められないと聞く。
- 花子は、乱暴者の太郎と祝言(しゅうげん:結婚のこと)の盃を交わすことを頑として拒んだ。
- 革命前夜、義士たちは円を組んで盃を交わし、皆で新しい秩序を築くと誓い合った。
- 彼とは盃を交わした仲だから、何があっても裏切ることはできない。
- 子どもの頃、泣いている私を友達が慰めてくれた。私たちはヤクザ映画の真似をして義兄弟の誓いを立て、オレンジジュースで盃を交わした。
「盃を交わす」に関係する慣用句
- 盃を貰う…相手から差し出された盃で酒を飲むこと。(ヤクザなどの世界で)子分になること。
- 盃を返す…差された盃の酒を飲み、その盃を差し返すこと(返杯)。または、子分が、親分に対して縁を切ること。