「抱く」の意味と読み方
「抱く」には、現在、「だく/いだく」という二つの読み方があり、以下の1、2のような共通の意味がありますが、3の意味で使うときは、「抱く(いだく)」という読み方だけを使います。
- 腕でかかえて持つ。
- かかえるように包み込む。
- 心の中に考えや感情を持つ。
これ以外に、「守る。擁護する」や「男女が関係を持つ」という意味を掲載している辞書もあります。しかし、前者は、古典での用法であり、後者は、「抱く」という動作の中に、行為そのものを比喩的に捉えていると考えられることから、ここでは割愛しています。
「抱」の成り立ちと「抱く」の読み方の変遷
「抱」という漢字は、赤ん坊を抱いた様子を表す象形文字「包」と「手」からなり、両手でかかえる、だきかかえるという意味を持ちます。そこからさらに、心に考えや思いを持つ、まもるという意味を持つようになりました。
このような「抱」の成り立ちから、「抱く」の読み方の変遷をさかのぼると、奈良時代から平安初期は「むだく」、平安初期から鎌倉時代は「うだく」、そして、「いだく」は平安初期から、「だく」は平安中期から現代までそれぞれ使われています。
古典では、「むだく」に「抱く/懐く」、「うだく」には「抱く/懐く/擁く」が充てられています。そして、現在は、これらの漢字に「いだく」と「だく」の二つの読み方が使われていて、その使い分けは上記の意味のところで説明したとおりです。
「抱く」の使い方
1の意味「腕でかかえて持つ」
1の意味は、人が何かを腕と体で抱え持つことや親鳥が卵を孵化させるために体で温めるさまなどを表す時に使います。
【例文】
- 生まれたばかりの赤ん坊を抱(だ)くのは怖い。
- 庭の木に鳩が巣を作り、親鳥が卵を抱(だ)く様子を見ることができる。
- 聖母マリアに抱(いだ/だ)かれたキリストを描いたラファエロの聖母子像は、私の好きな絵の一つです。
- 最後の打者を三振に打ち取って優勝した瞬間、選手がマウンドに駆け寄り、互いに肩を抱(だ)き合って喜びの声をあげた。
- 幼稚園児の子供が、お手伝いすると言って、弟のオムツのパックを抱(だ)きかかえて歩く姿が微笑ましい。
2の意味「かかえるように包み込む」
2の意味は、情景描写などでよく使われます。例えば、大自然に包み込まれるような情景描写では、「抱(いだ)かれる」と読むことが多いのですが、「抱(だ)かれる」と読む場合もあります。
どちらの読み方をするのかは、文章全体から判断することになりますが、作者の意図が反映されて、ルビが付されていることもあります。
【例文】
3の意味「心の中に考えや感情を持つ」
「抱く(いだく)」で思い浮かぶ有名な言葉は、札幌農学校(北海道大学の前身)の初代教頭:ウィリアム・スミス・クラークが日本を去る時に、教え子たちに贈った言葉と言われている「青年よ、大志を抱け(Boys, be ambitious)」ではないでしょうか。
「大きな志を持て」というこの言葉のように、「抱く(いだく)」は、志や夢や希望だけではなく、疑問・疑念・不安・反感・不信感など、心の中にある考えや思いを表す時に使います。
【例文】
「抱く」の類語
「抱擁」
「抱擁(ほうよう)」は、抱きしめること、抱き合って挨拶や愛撫することです。抱擁する相手は、主に人や動物ですが、ぬいぐるみのようなものを抱擁することもあります。愛おしい気持ちや親しみがあるときに使われる言葉です。
「抱擁」は、言葉も漢字も難しいと感じる人でも、「ハグ」と言えば、わかりやすいかもしれませんね。
【例文】
- 海外に単身赴任していた彼が1年ぶりに帰国し、うれしさのあまり出迎えた空港で抱擁しあった。
- 5歳の娘は、大好きなクマのぬいぐるみを抱擁して眠るのが好きだ。
「覚える」
「覚える(おぼえる)」には、多くの意味がありますが、「抱く(いだく)」の類語としては、からだや心に感じるという意味があります。感動を覚える・不快感を覚える・疲れを覚える・親しみを覚える・やりがいを覚えるなど、いろいろなことに使うことができます。
【例文】