「十分」の意味
「十分」とは「条件が満たされて不足がない」という状態を表す言葉です。しかし、「じゅうぶん」と漢字で書く時には「十分」と「充分」の2通りの表記があり、どちらを使うか迷う時もありますよね。一般的に、「十分」と「充分」はどのように使い分けられているのでしょう?
「十分」と「充分」の違い
辞書では「十分」と「充分」は同じ
辞書の上では「じゅうぶん」を「十分」と書いても「充分」と書いても意味は同じです。文化庁は「十分」の表記を推奨していますが、日本国憲法には「充分」も使われており、統一されていません。
慣習的には「十分」と「充分」は違う
意味は同じでも、慣習的に「十分」と「充分」の使い方にある傾向が見られるのも事実です。
- 客観的に見て足りている状態が「十分」
- 主観的に満ち足りている状態が「充分」
迷ったら「十分」を使う
客観的か主観的か迷うという時には、「十分」を使うとよいでしょう。理由は簡単で、『文化庁-語形の「ゆれ」の問題 漢字表記の「ゆれ」について(報告)3』において、「「十分」を採るべき」と示されているからです。
「十分」が本来の書き方であって「充分」はあて字ですから、「十分」と表記するのが妥当と言えます。
「十分」と「充分」――いずれも普通に行なわれている。憲法では「充分」を使っている。本来は「十分」であって,「充分」はあて字である。また,「十」のほうが字画も少なく,教育漢字でもあり,「充」はそうでないことなどからも,漢字を使うとしたら「十分」を採るべきであろう。しかしながら,最近では,この語はかな書きにする傾向がある。
公用文や「文部省刊行物表記の基準」などでは,かな書きを採り,「十分」と書くことを許容している。
「十分」と「充分」の使い分け
公文書では「十分」
上の「「十分」を採るべき」、「公用文などではかな書きを採る」という文化庁の見解から、公文書では「十分」あるいは「じゅうぶん」と書きます。
また、教科書や新聞などでも「十分」と表記されています。
そこまで堅苦しくない文書、手紙やメールなどでは次のような使い分けが見られます。
数値を強調する場合は「十分」
個数や面積など数値を強調したい場合や、1〜10まで取りこぼしがない状態を表現する場合には、「十分」を使います。
- 「物資は十分にあります。」
- 「十分調査しました。」
気持ちを強調する場合は「充分」
「よく」「しっかり」のように気持ちを強調したい場合には「充分」を使います。特に相手への謝意を込めたい場合には、「充分」を使うことが多いです。
- 「充分に楽しみました。」
- 「充分にいただきました。」
また、「睡眠」について「充分」を使うのは、よく眠って精神的に満たされたという状態を強調するからです。
- 「充分に眠れています。」
どちらも使われている場合
「注意する」「気をつける」という場合には、どちらも使われています。
どちらも使いますが、ニュアンスは少し異なります。
- 「十分に注意する」:100%の注意を払う
- 「充分に注意する」:問題ない程度に注意を払う
同じように「頑張る」「(努力の成果などを)発揮する」という場合にも、どちらも使われています。
- 「十分に頑張った」:頑張った結果、納得のいく点数などが取れた
- 「充分に頑張った」:点数は問題ではなく精神的にベストを尽くしたと満足できた
「注意する」「頑張る」こと自体は主観性が強いですが、「注意した」「頑張った」成果は客観的に捉えることが可能な場合もあるので、客観的か主観的か迷うところです。
このような時には、
- 「100%」「十二分に」というニュアンスならば「十分」
- 「充実」「充足」というニュアンスならば「充分」
「十分」の使い方まとめと注意点
「十分」は「条件が満たされて不足がない」という状態を表し、特に、客観的な数値で表せるものが足りている場合に使われることが多い言葉です。
ただし、「時間は十分ある」などのように、数値の10を表すのか、足りている状態を表すのか紛らわしい場合は、ひらがな表記にするか、他の言葉で言い換える配慮が必要です。