「安普請」とは
「安普請(やすぶしん)」とは、安い費用や粗雑な材料などを使って家を建てること、あるいはそうして建てた家のことです。「安物で粗雑なつくりの建物」「あまり上等ではない家」ということですね。
「安かろう悪かろう」という慣用句があります。これは、値段が安いとそのぶん質が落ちるだろうとか、安いものに良いものはないということを意味しています。
「安普請」も、安い費用では上質な材料も高度な技術も使えないことから、安物とか壊れやすいといったネガティブなニュアンスを含んだ言葉です。
「普請」の由来
「普請(ふしん)」は、家を建てたり修理したりすること、道路や橋、水路・堤防工事など、つまり土木・建築工事のことですが、元来は仏教の言葉です。
「普請」は、禅宗寺院で使われた言葉で、普(あまね)く人々に請(こ)い、力を合わせて労役作業をすることを指していました。「普く」は、広く一般に、「請い」は、頼むことで、ここでは「寺院の修行僧に呼び掛けて」という意味で使われています。
このような意味が転じて、室町時代あたりからは土木工事という意味で「普請」が使われました。時代劇や時代小説などには、「城の普請」とか「普請奉行」という言葉が登場します。一方、建築は「作事(さくじ)」と呼んで「普請」と区別していました。
「安普請」の使い方
上述のように、「安普請」にはさげすむようなニュアンスがあります。そのような家や建物の持ち主、住民が自嘲的に使う場合もあれば、第三者が見下したように使うこともあります。
【例文】
- 毎晩、壁越しに隣の部屋の話し声が聞こえる。安普請のアパートで、家賃も格安だから仕方ないよ。
- この家は安普請だが、この間の大地震でも倒れなかった。運がよかったのかもしれない。
- 新築披露に招いた友人の一人が、僕が気づかないと思って、SNSで安普請のタグをつけていた。あいつとは絶交だ!
- 道路工事が始まったら、ダンプカーの振動で家が震えるようになった。予算をケチって安普請だからかな。
「安」のつく言葉
「安」は、安全・安心・安住・安泰など、安んじる、心配がないといった意味でよく使われますね。一方、「安普請」のように、値段が安いという意味で、見下すような感じで使われる漢字でもあります。
ここでは、「安普請」のようにネガティブな意味合いを持つ「安」の熟語や、慣用句などをご紹介します。
「安易」
「安易(あんい)」には、二つの意味があります。
- たやすくできる。気楽。
- 軽々しく、いいかげんである。
1の意味は、簡単にできる、といったイメージで、前向きな印象を感じるかもしれません。一方で、2の意味は、真剣さがないとか、投げやりだ、といったネガティブなニュアンスがあります。
【例文】
- そんな安易な考えでは先が思いやられるよ。
- ゆるキャラブームに乗って、安易な発想で生み出した故郷のキャラクターは、地元の人に全く支持されなかった。
「偸安」
「偸安(とうあん)」は、目先の楽だけを考えて、将来のことを考えずに一時逃れをすることです。「偸」は、盗む・むさぼるという意味があります。古典や小説などには使われていますが、現代で使うことはめったにありません。「安きを偸(ぬす)む」という表現もあります。
【例文】
- 一流大学を卒業し、一流企業に就職した彼は、安定・高給という現在の偸安をむさぼる(安きを偸む)給料泥棒に成り下がってしまった。
- 親の遺産を受け継いだその男は、就職も結婚もせず、ただ偸安怠惰な生活を送っている。
「安物買いの銭失い」
「安物買いの銭失い(やすものがいのぜにうしない)」は、値段の安いものは質も悪くて長持ちせず、修理したり買い替えたりして、結果的に高くつくというこという意味のことわざです。いろはかるたなどにも登場することから、知っている人も多いかもしれません。
【例文】
- 安かったからと買ってきた大量の食材は、半分も腐らせてしまったじゃないか。安物買いの銭失いとは君のことだ。
- ネットオークションで安く買った冷蔵庫が半年で壊れてしまった。まさに安物買いの銭失いだ。