「戻り鰹」とは?
「戻り鰹(もどりがつお)」とは、秋に獲った鰹のことです。「下り鰹(くだりがつお)」、「秋鰹(あきがつお)」とも呼ばれます。
鰹は暖かい海を好み、日本近海では暖流である黒潮の流れに沿って、季節的な回遊をします。春から夏にかけては黒潮と、寒流である親潮とがぶつかる三陸海岸の沖あたりまで北上し、秋になって親潮の勢力が強くなってくると、太平洋岸を南下してきます。この南下してきた鰹を獲ったのが、戻り鰹です。
戻り鰹の旬
戻り鰹の旬は、その年の気候や獲れる港などによって異なりますが、一般的には、8月~10月ころとされています。三陸沖では8月~9月ころから漁獲され、高知沖や九州沖に戻ってくるのが10月~11月ころです。
「初鰹」とは?
戻り鰹に対して、初夏のころに最初に獲れる鰹を「初鰹(はつがつお)」と言います。食品業界では、鰹の漁獲高が高い高知県で獲られる時期が初鰹の基準とされていますが、おおよそ4月~6月ころが旬とされます。「上り鰹(のぼりがつお)」とも呼ばれ、脂肪が少なく、赤身でさっぱりした味が特徴です。
江戸時代には、初物が好きな江戸っ子にとくに好まれ、「初鰹は女房子供を質に置いてでも食え」と言われるほどでした。値段も高く、1本あたり現在の価格で10~16万円程度で取引された記録も残っています。
初鰹を詠んだ俳句
山口素堂(やまぐちそどう、1642~1716)
松尾芭蕉(まつおばしょう、1644~1694)
「鰹」とは?
鰹はサバ科マグロ族カツオ属の魚で、外洋性の大型肉食魚です。「堅魚」、「堅木魚」、「勝魚」、「松魚」などとも書かれます。カツオという名前は、干したものを堅魚(かたうお:身が堅い魚)と呼んだことに由来するとされます。
古くから食用にされていて、大和朝廷が鰹を干したもの(堅魚)を献上させていたという記録もあります。江戸時代には刺身として人気が出て、富裕層から庶民にも広がりました。ですが、庶民にとっては手が届くとはいえ、ごちそうであることには変わりありませんでした。
なお、江戸時代の鰹の刺身は、からしで食べられるのが一般的でした。また、江戸時代に「鰹のたたき」と呼ばれていたものは、現在の鰹の塩辛にあたります。この塩辛であるところの「鰹のたたき」は、本能寺の変のときに堺にいた徳川家康が、三河へ逃げ帰る途中でかくまわれた家でふるまわれた記録が残っています。
鰹の栄養
良質なたんぱく質を多く含みます。血液をきれいにして、動脈硬化や血栓ができるのを防ぐDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)も豊富で、赤身には、吸収されやすい鉄分を含みます。貧血を防ぐビタミンB12や美肌効果のあるナイアシンも豊富です。
漁獲量の多い県
- 静岡県
- 東京都
- 三重県
- 宮城県
- 高知県
- 宮崎県
戻り鰹の特徴
戻り鰹は、産卵準備や海水温の影響、餌をしっかり食べたことなどで脂がのっています。餌を追い求めて黒潮とともに北上している途中で獲られる初鰹にくらべて、10倍ほどの脂肪を含みます。
このため、トロガツオと呼ばれるほど濃厚な味で、秋の味覚として初鰹に負けないほどの人気となっています。初鰹にくらべて、もっちりした味ともいわれます。
初鰹にくらべて脂が多いため、脂に含まれるDHAやEPAも初鰹より豊富に含みます。また、背中側よりも腹側の身のほうが脂がのっていて、こってりした味わいが楽しめます。
調理法としては濃厚な脂を楽しむことができる刺身に人気がありますが、加熱してもパサパサになりにくいので、塩焼き、揚げ物、煮物などの火を通す食べ方でもおいしくいただけます。