「行水」とは
行水(ぎょうずい)とは、以下2つの意味があります。
①夏の暑い時期などに、湯や水を入れた盥(たらい)に入って、体の汗を洗い流すこと。
②潔斎(けっさい)。
「行水」の意味①について
盥(たらい)は、木でできた丸く平たい桶のことです。昔は手や顔を洗うことに使われていたため、「手洗い」が訛って変化し「たらい」と呼ばれるようになったと言われています。
これに水や湯を張り、体の汗を流すことを「行水」と言います。昔は、現在の様にお湯を張り湯船につかるような設備があるほど庶民の暮らしは豊かではなかったので、武士や庶民の間では水を節約できる「行水」が一般的に行われました。特に暑い夏の時期は、汗を流すのに重宝されました。
行水には、日向水(ひなたみず)といって、たらいの水を太陽の下に出して置き、暖かくして使うこともあったそうです。後に盥(たらい)は金物やプラスチック製なども出回りましたが、お風呂や洗濯機が当たり前になった今では、商店などでもあまり見かけなくなりました。
また、次のように「行水」は俳句などの夏の季語でもあります。
「行水」の意味②について
潔斎(けっさい)とは、「神事・仏事を行う前に、水や湯を桶に汲んで、それを体に浴び心身を清めること」を言います。神道では「禊(みそぎ)」とも言い、神事に携わる前などに昔から行われていました。
仏道では、水や湯を浴び心身を清めることは仏に仕える大切な仕事とされ、浴堂(よくどう)と言って僧侶が沐浴(もくよく)する施設がお寺に作られました。沐浴とは、僧侶がお湯や水で体を清めることで、宗教的儀礼に用いられる言葉です。「七病を除き七福を得る」という教えがあり、広く庶民にも施浴(せよく=入浴を施すこと)を行っていたそうです。
日本のお祭りにおいても、潔斎(けっさい)は見られます。特にお祭りごとの中心となる人は、心身を清浄にすることが求められ、「精進潔斎(しょうじんけっさい)」と言って、水やお湯で体を清めるのはもちろん、行いや言葉を慎み、食べ物も一般に使う火とは別の火で料理したものを食べるなど、禁欲の生活を送るそうです。
「烏の行水」の意味
「行水」の2通りの意味を見てきましたが、シャワーやお風呂が当たり前となった今日では、「行水」という言葉だけで用いることはほとんどなくなりました。しかし、「烏(からす)の行水」という語句は広く使われています。
「烏の行水」とは、「お風呂にゆっくりつかったり洗ったりせず、すぐに出てしまうことのたとえ」です。烏は清潔な鳥で、水浴びを毎日するそうですが、それにかかる時間が大変短いので「お風呂からすぐ出ること」を「烏の行水」と言うようになりました。
「行水」の使い方
「行水」は、次のように使います。
- 夏の暑い日だったので、子どもに行水をさせた。
- 昭和中期ぐらいまでは、行水が広く行われていたようだ。
- それではまるで烏の行水だね。
- 烏の行水じゃなく、きちんと体を洗いなさい。
「行水船」とは
お風呂に入ることを「湯舟(船)につかる」と言いますが、これは「行水船(ぎょうずいぶね)」から来たものです。
「行水船」とは、「行水をする設備のある船のこと」で、江戸時代から始まりました。水運が発達していた江戸では、船着き場に行水船が停泊し、船に乗っている人にお金を取って入浴させていたそうです。そのうちに浴槽を設けたそうですが、当時は銭湯より湯銭は安く、庶民に親しまれたようです。
まとめ
日本人は昔から綺麗好きと知られ、お風呂や銭湯、温泉は日本人に愛され続けています。「行水」は、お風呂の元祖と言ってもいいぐらいですが、長く庶民に親しまれ、俳句などの季語にもなりました。現在「行水」は姿を変え、ビニールプールなどと一緒に、子どもの夏の遊びに取って代わっています。