「昨年」の意味
まずは「昨年」の意味から見ていきましょう。「昨年」を辞書で引いてみると以下のように解説されています。
今年の前の年。「去年」
では、「去年」はどのように書かれているのでしょうか。
今年の前の年。「昨年」
二つの言葉は全く同じ意味・お互いが類義語として扱われており、細かなニュアンスの違いについては明記されていません。一体どのように使い分ければいいのでしょうか。「昨年」と「去年」の違いを3つのポイントで解説します。
「昨年」と「去年」の違い①使用する場面
皆さんは普段親しい人との会話の中で「昨年」という言葉を使いますか。例えば以下のような使い方です。
「昨年の夏休みにハワイに旅行に行ったよ。」
違和感を覚えませんか。このような会話では「去年」を使うことの方が多いのではないでしょうか。
そう、「去年」は昨年に比べるとフランクなニュアンスがあり、主に日常会話で使われます。対して、「昨年」は改まったシーンで使用される言葉です。例えば、目上の人と会話する場合やビジネスシーン、御礼状のような改まった手紙や文章、ニュースや新聞などです。
また、年賀状や結婚式のスピーチなどでも「昨年」を使った方がよいとされています。これは、昨年が改まったニュアンスを持っていることもありますが、それよりも去年を使用すべきでないという考え方が大きな理由です。
去年には去るという意味が含まれています。死去や逝去など死を連想させる言葉にも用いられているため縁起が良くないとされています。このような言葉を”忌み言葉”と言います。日本には古くからお祝いの場では忌み言葉を避けるという風習があります。そのため、新年を祝う年賀状や結婚式では去年を使用することはタブーとされているのです。
ちなみに、年賀状でよく見る「旧年」も前の年という意味ですが、実はお正月限定の季語です。新年と対になります。お正月限定の季語をあえて使うというのも粋ではないでしょうか。
「昨年」と「去年」の違い②時間軸
「昨年」と「去年」には時間的な概念にも違いがあります。「昨年」は状態の継続や現在との比較を表すときに用いられます。
具体的な例を挙げると、昨年度や昨年来といった言葉が分かりやすいと思います。昨年度は現在との比較、昨年来は現在への継続を意味しています。去年度や去年来という言葉はありません。
昨年と同様のニュアンスを持つ言葉として「前年」があります。同じく状態の継続や現在との比較を表す場合に用いますが、前年が指すのは今年の前の年(去年)とは限らない点が決定的な違いです。
「昨年」と「去年」の違い③歴史
最後のポイントは昨年と去年という言葉の歴史です。日常会話で使用される去年の方が歴史が浅いのかと思いきや逆です。「去年」は古くからの漢語で、「昨年」は明治以降用いられるようになった言葉です。
去年はこぞとも読むことができ、俳句の季語となっています。新年を迎えたときに前年を振り返る場合に使います。古くは万葉集にも去年(こぞ)を使った歌が詠まれています。
柿本人麻呂
ちなみに、この歌は妻の死を哀しみを詠ったものです。「昨年」という言葉が無かった時代ではあるものの、「去年」という言葉だからこそ哀しみが痛切に伝わってくるような気がしませんか。昔は今よりも「前の年」には「過ぎ去ったもの」というイメージが強かったのかもしれませんね。
「昨年」と「去年」の使い方
「昨年」と「去年」の違いについて分かったところで、それぞれについて実際の使用例を見てみましょう。
「昨年」の使い方
1. 改まった場面での挨拶
昨年は大変お世話になりました。
2. 現在との比較
昨年度に比べると売上高が10%増加しました。
3. 現在への継続を表わす場合
昨年来、小麦の収穫量は上昇し続けています。
「去年」の使い方
「去年」は主に日常会話で用います。
- 去年の冬はスキーをして楽しかったね。
- 去年の忘年会は何の余興をしたんだっけ?
「昨年」まとめ
英語で今年の前の年を表す言葉はlast yearしかありません。それに比べると日本語は複雑で難しい言語ですよね。シーンによって正しく「昨年」と「去年」を使い分けられるようにしましょう。